福山市内で建物の解体を計画されている皆様、いざ解体に着手しようという時、「お隣さんとの土地の境界線、どこまでだったかな?」と不安に感じたことはありませんか?
解体工事は、ご自身の敷地内で行うものですが、その境界が曖昧なままだと、後々深刻な隣人トラブルに発展するリスクがあります。
特に、福山のように昔ながらの住宅が密集している地域では、図面通りの境界標(杭)が見つからないケースも少なくありません。
この記事では、解体工事を安全かつ円滑に進めるために、隣地との境界線が曖昧な場合に取るべき具体的な対処法を、専門的な視点からわかりやすく解説します。
- 境界確認の重要性
- 境界が曖昧になる原因
- ご自身でできる初期の確認ステップ
- 専門家への依頼と手続きの流れ
- 隣地所有者との円満な合意形成
この情報を読めば、境界線に関する不安を取り除き、安心して次のステップ(解体業者選定など)へ進めるようになるでしょう。
1. なぜ解体前に「境界線の確認」が重要なのか?

解体工事を行う前に境界線を確定させることは、単なるマナーではなく、法的な側面と実務的な側面から見て極めて重要です。
法的なリスクを回避する
もし誤って隣地の敷地や工作物(塀、植栽など)を一部でも破壊したり、解体した建物の残骸を越境させてしまったりした場合、不法行為となり、損害賠償を請求される可能性があります。
境界線が明確になっていないと、「どちらの所有物か」が不明確な共有物(たとえば、境界線上に建っている塀など)の取り扱いについてもトラブルになりがちです。
民法では、土地の所有権は、法令の制限内において、その土地の上空および地下に及ぶとされています(民法第207条)。
解体工事で発生する振動や音も、境界を越えて伝わるため、事前に境界を明確にし、越境していないことを証明できるようにしておくことが最善の防御策となります。
工事の遅延と追加費用を防ぐ
境界線が未確定のまま工事に着手し、途中で隣地との間で「この塀は誰のものか」「足場はこのラインまで組んで良いのか」といった揉め事が生じると、工事が中断してしまいます。
工事が中断すれば、その分工期が延び、解体業者への追加費用が発生する可能性があります。
また、解体後の更地を売却する予定がある場合、境界線が確定していない土地は買い手にとってリスクが高く、売却価格が下がるか、取引自体が進まない原因にもなりかねません。
2. 境界線が「曖昧」になる主な原因

「昔からここが境界だと思っていた」という認識と、法的な境界線が異なることは珍しくありません。
境界線が曖昧になってしまう背景には、いくつかの一般的な原因があります。
境界標(杭)の紛失・移動
境界標(きょうかいひょう)とは、土地の四隅などに設置される杭や鋲(びょう)のことで、公的に土地の境を示す最も重要な目印です。
- 経年劣化や自然災害: 長年の間に風雨や地震で地中に埋もれたり、破損したりすることがあります。
- 工事による移動: 過去に隣地やご自身の敷地で外構工事や舗装工事を行った際に、誤って撤去・移動されてしまうことがあります。
- 意図的でない移動: 昔、隣人同士の合意で「この石を動かそう」といった認識のズレが原因で移動しているケースもあります。
公的な資料の不足や不備
地積測量図(ちせきそくりょうず)は、土地の形状や面積、そして境界点の位置が明記された公的な図面ですが、全ての土地に最新かつ正確な図面が存在するわけではありません。
- 古い図面の存在: 明治時代などの古い測量技術で作成された図面は、現在のGPS測量などと比べると精度が低く、実際の現地との間にズレが生じていることがあります。
- 未登記の土地: 登記簿上の地積と実際の面積が異なる、いわゆる「縄伸び」「縄縮み」の状態にある土地も存在します。
塀や生垣、側溝などの存在
敷地の間に長年存在する塀や生垣、側溝などは、一見境界のように見えますが、これらが必ずしも法的な境界線上に設置されているわけではありません。
- 塀がどちらかの敷地内だけに建てられている場合、その塀は建てた側の所有物であり、境界線は塀の「外側」にあることになります。
- 側溝や水路が挟まっている場合、その側溝が公道なのか、両者の共有物なのかによって、境界線の位置が変わってきます。
3. まずご自身でできる初期の確認ステップ

解体業者に相談する前に、まずはご自身で手元や現地を確認することで、問題解決の糸口が見つかることがあります。
ステップ1:法務局で資料を確認する
まずは、土地の所在地を管轄する法務局(福山市なら福山支局など)で、土地に関する公的な資料を取得します。
| 取得すべき資料 | 内容と確認ポイント |
| 登記事項証明書(登記簿謄本) | 土地の地番、地積(面積)、所有者などの基本情報を確認します。 |
| 公図(地図・地図に準ずる図面) | 土地のおおまかな形状や隣接地の配置を確認します。ただし、公図はあくまで「おおまかな配置図」であり、境界線の正確な位置を示すものではない点に注意が必要です。 |
| 地積測量図 | 最も重要。測量に基づいて作成された図面で、境界点の座標や距離が記載されています。この図面があれば、境界標の位置を特定できる可能性が高まります。ない場合は後述の専門家への依頼が必要です。 |
ステップ2:現地で境界標を探す
地積測量図を手に入れたら、それをもとに現地で境界標を探します。境界標は、以下のような形をしています。
- コンクリート杭: 一般的によく見られるタイプ。頭に十字や「+」の刻印があります。
- 金属標(プレート、鋲): 道路との境界やコンクリート上に埋め込まれていることが多いです。
- 石杭: 昔ながらの境界標で、地中に深く埋まっていることがあります。
境界標は、地面から少し顔を出していることもあれば、土や砂利、時にはコンクリートの下に隠れてしまっていることもあります。手袋をして、地表を軽く掘ってみる、あるいは金属探知機(簡易なものでも可)を使ってみるのも有効です。
ステップ3:隣地所有者との話し合い
もし境界標が見つからなかったり、見つかった境界標の位置が隣地の所有者の認識と異なっていたりした場合は、まずは穏便に話し合う場を設けることが重要です。
- 「今度、解体を考えているので、念のため境界の確認をしたい」という目的を明確に伝えます。
- 法務局で取得した資料を見せながら、「資料だとこのようになっているようですが、実際のところ、どこまでが自分の敷地だと認識されていますか?」と相手の意見を尊重しながら尋ねます。
くれぐれも、感情的になったり、勝手に境界線を決めつけたりすることは避けましょう。話し合いだけで解決しない場合や、隣人が協力的でない場合は、次の専門家へ依頼するステップに進みます。
4. 境界確定のための専門家への依頼と手続き

ご自身での確認が困難であったり、隣人との合意が得られない場合は、国家資格を持った専門家に依頼し、法的に有効な手続きを経て境界を確定させる必要があります。
依頼すべき専門家:土地家屋調査士
土地の境界を専門に扱うのは土地家屋調査士(とちかおくちょうさし)です。
解体業者や不動産会社も境界に関する相談に乗ることはできますが、実際に測量・境界確定を行えるのは、法律で定められた土地家屋調査士だけです。
<土地家屋調査士の役割>
- 資料調査: 法務局、市役所などで公的な資料を徹底的に調査します。
- 現地測量: 最新の測量機器(トータルステーション、GPSなど)を用いて、現地の正確な測量を行います。
- 境界標の復元・設置: 既存の資料と測量結果に基づき、法的に正しい位置に新しい境界標を設置します。
- 境界確認書の作成: 隣地所有者と立ち会い、境界の位置に異議がないことを確認した上で、境界確認書(または筆界確認書)という法的な効力を持つ書類を作成します。
境界確定の手続きの流れ
境界確定のための手続きには、大きく分けて二つの方法があります。
① 境界確認(民々境界)
これは、土地家屋調査士の仲介のもと、あなたと隣地所有者の間で話し合い、合意に基づいて境界線を確定させる一般的な方法です。
- 依頼・測量: 土地家屋調査士に依頼し、現地測量を行う。
- 隣地立会い: 測量結果に基づき、隣地所有者に現地で立ち会ってもらい、境界の位置を確認・承諾してもらう。
- 境界確認書の締結: 双方と土地家屋調査士が署名・押印した境界確認書を交わす。
- 境界標の設置: 確定した位置に永続性のある境界標を設置する。
この手続きで境界が確定すれば、解体工事を安心して進められます。
② 筆界特定制度(公的な手続き)
隣地所有者が非協力的であるなど、話し合いによる合意形成が困難な場合に、法務局が主体となって公的に筆界(ひっかい)を特定する制度です。筆界とは、登記された土地の境目のことを指します。
- 申請: 土地所有者が法務局に筆界特定を申請する。
- 調査: 筆界調査委員が、資料調査や現地調査、関係者からの聞き取りを実施する。
- 筆界特定の決定: 法務局の筆界特定登記官が、調査結果に基づき筆界を特定し、その結果を通知する。
この手続きは時間がかかりますが、隣人の同意なしに公的な決定を得られるのが大きなメリットです。
ただし、「境界線上のトラブルを解決する訴訟」とは異なるため、この特定結果に納得できない場合は、別途裁判(境界確定訴訟)を起こす必要があります。
5. 隣地所有者との円満な合意形成のコツ

解体工事をスムーズに進める上で、最も重要になるのが隣地所有者との良好な関係です。
境界線の確認は、将来にわたっての隣人関係に影響を与えるため、細心の注意を払って進めましょう。
💡 コツ1:早い段階での「相談」と「配慮」
「解体する」と決めたら、すぐに隣人に「ご挨拶とご相談」をしましょう。
- 「ご迷惑をおかけしますが、解体を予定しています」と、解体工事の目的と時期を伝えます。
- 「念のため、解体前に土地の境界線を明確にしておきたいのですが、ご協力いただけますでしょうか」と、協力をお願いする姿勢を見せます。
- 土地家屋調査士の紹介をする際も、「専門家を入れることで、お互いにとって将来的な不安を残さないようにしたい」という、共同の利益を強調することが重要です。
💡 コツ2:費用負担に関する明確な取り決め
境界確認にかかる土地家屋調査士への費用は、通常、確認を求めた側(解体予定者)が全額負担します。
しかし、隣地所有者にもメリットがあるため、費用の一部を折半してもらうこともありますが、これはあくまで交渉次第です。
- 最初から費用を折半してほしいと求めるのではなく、まずは全額負担のつもりで話を進め、もし相手から折半の申し出があればそれを受ける、というスタンスが円満です。
- 塀やフェンスのように、境界線上にあり共有物とみなされるものの解体・撤去・新設費用については、原則として両者が半分ずつ負担することになります(民法第226条、第227条)。この点も、事前に明確に話し合い、書面に残しておくことが非常に重要です。
💡 コツ3:境界確認書は必ず作成する
口約束は、時間が経つと「言った」「言わない」のトラブルになりかねません。
境界の位置について隣地所有者と合意ができたら、必ず土地家屋調査士が作成した境界確認書(筆界確認書)を取り交わしましょう。
これは、将来、隣地の所有者が変わった際にも、新たな所有者に対して法的な証拠として提示できる、大変重要な書類です。
6. まとめ:安心して解体を進めるために

福山で解体工事を行う上で、「境界線の確認」は避けて通れない重要なプロセスです。
- まずは法務局へ:公図や地積測量図などの公的な資料を入手しましょう。
- 現地を丁寧に確認:境界標が埋もれていないか、ご自身で探してみましょう。
- 隣地所有者へ早期相談:解体の意向と境界確認の必要性を丁寧に伝えましょう。
- 専門家への依頼:解決しない場合は、迷わず土地家屋調査士に依頼し、法的に有効な境界確認書を作成してもらいましょう。
解体工事は、新しい生活への第一歩です。
境界問題をクリアにしておくことで、工事中の不安がなくなり、将来の土地活用や売却もスムーズになります。
福山市内には信頼できる土地家屋調査士や解体業者が多数います。境界線に関するご不安がある場合は、まずは解体業者へご相談いただくか、直接専門家へお問い合わせください。
この情報が、皆様の解体計画の一助となれば幸いです。




